遺言・遺産相続に関する基礎知識
特別受益
特別受益とは
共同相続人の中に、被相続人から遺贈を受けたり、贈与を受けたりした者がいる場合、この者が他の相続人と同じ相続分を受けられるとすれば不公平になります。
そこで、民法では、共同相続人間の公平を図ることを目的として、特別受益分(贈与や遺贈分)を相続財産に持ち戻して計算し、各相続人の相続分を算定することにしています。
特別受益にあたるものは
特別受益となるのは、①相続人が(※)、②被相続人から婚姻、養子縁組のため、もしくは生計の資本として、③生前贈与や遺贈を受けた場合です。
(※)相続人でない者が贈与や遺贈を受けた場合は含まれません。
特別受益にあたるものの例
・結婚の持参金をもらった
・家を建ててもらった
・住宅の取得資金を出してもらった
・事業を始めるにあたって開業資金を出してもらった
特別受益にあたらないものの例
・結婚式の費用
・一般的な大学の授業料
・生命保険金
※ 生命保険金は、原則として特別受益には該当しませんが、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生じる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は、特別受益に準じて持戻しの対象となります(最高裁平成16年10月29日判決)。
特別受益の評価の基準日
特別受益財産は、相続開始の時点を基準として評価されます (最高裁昭和51年3月18日判決)。
特別受益がある場合の計算方法
相続発生時の遺産に、特別受益財産を加算して、生前に渡された分を含めた実質的な遺産の額を算出します。この実質的な遺産額をみなし相続財産といいます。
次に、みなし相続財産に各人の相続分を乗じて、各人の取得分(各人のトータルの取得分)を算出します。この取得分から、特別受益分(前渡分)を控除した分が、相続の際に取得する具体的取り分となります。
特別受益の計算例
遺産4000万円、相続人が子A,B、そのうちBのみ被相続人の生前に2000万円の特別受益があったという事例では、
みなし相続財産 4000万円+2000万円より6000万円
各人の取得分 6000万円÷2より3000万円
相続時のAの取得分 3000万円
相続時のBの取得分 3000万円-2000万円より1000万円
となります。
なお、特別受益が各人の取得分を超過しているときは(上記の例でBの特別受益が5000万円であったような場合)には、その超過分についてAB間で清算する必要はなく、上記の例でAが相続時の遺産4000万円全額を取得するだけです。
寄与分
寄与分とは
被相続人と共同して農業や商店の経営に従事してきた相続人のように、特定の相続人が(※)、被相続人の財産の維持または形成に特別の寄与、貢献した場合に、その相続人を、寄与や貢献のない他の相続人と同等に取り扱い、法定相続分どおりに分配するのは、公平を失することになります。
寄与分は、このような場合に、寄与者に対して寄与に相当する額を加えた財産の取得を認める制度です。
※寄与分を主張できるのは、相続人にかぎられ、内縁の妻や事実上の養子などは、どんなに貢献していたとしても、自ら寄与分を主張することはできません。
寄与分が認められる場合
寄与分といえるためには、寄与行為の存在によって、①被相続人の財産の維持又は増加があること、②寄与行為が特別の寄与といえることが必要です。
したがって、扶養義務の範囲を超えない貢献をしたとしても寄与分は認められませんし、寄与について既に相当の対価を得ている場合には、特別の寄与とは評価されません。
家業従事型
相続人が被相続人の事業に従事することで、相続財産の維持又は増加に寄与した場合をいいます。
家事従事型において寄与分が認められるためには以下の要件が必要です。
①身分関係
「特別の寄与」と言うためには、被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待される程度を超えた貢献でなければなりません。
②無償性
特別の寄与といえるためには寄与行為は原則として無償でなければなりません。
ただし、対価が払われていても、第三者を使用、雇用した場合に行っていたであろう支出と、相続人に対する現実の給付との間に差額がないときには無償性がないものと評価します。
③継続性
特別の寄与といえるためには、相当長期間にわたって継続してなされることが必要とされています。
④専従性
寄与行為が臨時や片手間になされるのでは足りず、本来自分が従事すべき仕事と同様に携わることが必要とされています。
金銭等出資型
金銭等出資型とは、相続人が被相続人に対し、財産上の給付を行い、又は被相続人の借金を返すなどして、相続財産の維持又は増加に寄与した場合をいいます。
①無償性のほか、②金銭等出資の効果が相続開始時に残存していることが必要です。
療養看護型
療養看護型とは、相続人が被相続人の療養看護を行ない、付添い看護の費用の支出を免れさせるなどして、相続財産の維持に寄与した場合をいます。
家事従事型と同様の①~④の要件を満たすことが必要となります。
扶養型
扶養型とは、相続人が被相続人を扶養して、その生活費を賄い、相続財産の維持に寄与する場合をいいます。
直系血族は互いに扶養する義務を負っているので,扶養行為が認められる場合でも、それを超えた特別の寄与にあたるかどうかの判断が必要になります。
財産管理型
財産管理型とは、相続人が被相続人の財産の管理を行ない、管理費用の支出を免れさせるなどして相続財産の維持に寄与した場合をいいます。
例えば、不動産の賃貸、管理、修繕、保険料や公租公課の支払い等の行為が考えられます。
この場合は、家業従事型や療養看護型のような専従性、継続性といった要件は考慮する必要はなく、基本的には金銭出資型に準じて特別の寄与といえるかどうかを判断します。
寄与分の算定
原則的には相続人の協議で決めます。協議で決まらない場合は、調停や審判を申し立てて家庭裁判所に決めてもらうことができます。
寄与分の計算
寄与分がある場合、各人の具体的相続分は以下のように算出します。
①(相続開始時の財産)-(寄与分)→みなし相続財産
②(みなし相続財産)×(各人の指定ないし法定相続分)→各人の一応の相続額
③(各人の一応の相続額)+(寄与分)→寄与者の相続額
④(各人の相続額)÷(相続開始時の財産)→各人の具体的相続分
となります。
寄与分の計算例
相続人が子A,Bの2人、相続開始時の財産5000万円、Aの寄与分が1000万円という事例では、
①みなし相続財産 5000万円-1000万円より 4000万円
②各人の一応の相続額 4000万円×2分の1より 2000万円
③Aの相続額 2000万円+1000万円より 3000万円
Bの相続額 2000万円
④Aの具体的相続分 3000万円÷5000万円より 5分の3
Bの具体的相続分 2000万円÷5000万円より 5分の2
となります。すなわち、寄与分の存在によってBの相続分は法定相続分から10分の1増加したことになります。
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